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東京地方裁判所 平成5年(ワ)7872号 判決

原告

犬塚容子

右訴訟代理人弁護士

秋葉信幸

被告

勧角証券株式会社

〈代表者名省略〉

右訴訟代理人弁護士

尾﨑昭夫

新保義隆

井口敬明

主文

一  被告は原告に対し、金一九〇万円及びこれに対する平成元年九月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを六分し、その五を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

四  この判決の第一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

被告は原告に対し、金一二五二万三〇四三円及びこれに対する平成元年九月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一判断の基礎となる事実

1  原告は被告に対し、平成元年四月下旬から、株式の売買の委託を始めたものであるが、同年九月一日、被告の営業担当者である高倉実城の勧めにより、日新製鋼ドル建ワラント債(新株引受権付社債)(編集部注・正確には、新株引受権付社債の新株引受権部分であるが、判決ではこのように略記されている。)七〇単位を一二五二万三〇四三円で買い付けた(以下、このワラント債を「本件ワラント債」といい、この取引を「本件取引」という。)。ところが、本件ワラント債は、その後、株価が権利行使価額を割り込んだまま権利行使期限である平成五年八月一七日を迎え、経済的価値のないものとなった。

(右事実は、当事者間に争いがない。)

2  原告は、右損失が被告の営業担当者である高倉の不法行為によって生じたものであるから、その使用者である被告は原告に対し、右損失に相当する損害を賠償すべきであると主張する。原告が高倉の不法行為として主張する具体的事実は、次のとおりである。

(1) 原告は昭和五九年ころから株式投資を始めたが、金額及び回数が増えたのは平成元年初めからである。当時、原告は離婚係争中で、夫と別居して幼い子供を抱えていたので外で働くことができず、家に居ながらにして生活資金を稼ごうとしたからである。原告には、被告と取引を始めるまでは、ワラント債や転換社債の取引歴はない。

(2) 原告が被告に対し、株式の売買の委託をしたのは、平成元年四月二五日、高倉の勧めにより、日産ディーゼル株の買付けを委託したのが最初である。以降、本件取引までに、一二銘柄の取引があったが、ほとんどが高倉の勧めによるものである。当初は、一銘柄への投資金額は一〇〇万円台から五〇〇万円台止まりであり、原告は、投資運用合計額約一三〇〇万円をいわば分散的に投資していた。

(3) 本件取引までに、結果としてはドル建ワラント債の購入が三回ある。金額にして、それぞれ一八〇万円、三一六万円、一五四万円である。ワラント債に関しては、本件取引までにパンフレットが被告から原告の住居に送られていた可能性が高く、原告は本件取引までに高倉から「ギアリング効果」といった言葉で、ワラント債について、一般の株式投資よりも儲けや損失が大きい旨の説明を受けたことはある。しかし、原告は本件取引までに、ワラント債の価格がゼロになってしまうリスクがあることを明示した説明を高倉から受けておらず、また、実際上認識していなかった。

(4) 平成元年八月二五日、原告は高倉から、被告会社が横浜冷凍株について特別な立場にあるとして、その購入を強く勧められた。その結果、口座に残っている余裕資金のほとんどを注ぎ込んで(約一〇〇万円を残すのみ)、一銘柄につき一〇五〇万円を投資することになった。

その購入後まもない九月一日、原告は高倉から、電話で、長時間又は何回かにわたり、本件ワラント債の購入を強く勧められた。なお、この時には、高倉はワラント債の商品の内容について、原告に説明していない。高倉が本件ワラント債の購入を強く勧めた理由は、同人の供述によれば、当時、鉄鋼株は値を上げていた状況にあり、本件ワラント債も値を上げる自信があったからである。

高倉は、原告に対し、横浜冷凍株をすべて売却した結果残る口座の残高を大きく超えることとなる本件ワラント債一〇〇単位の購入を当初勧めた。原告は、高倉の勧めにより、ただ儲かるものと思い、横浜冷凍株をすべて売却した後の口座残高を若干超えることとなる一二五二万三〇四三円で本件ワラント債を七〇単位購入することを承諾した。

(5) このように、ワラント債について十分な知識のない原告に対し、儲かることを強調して、現有株式のほとんどを売却した結果残る口座残高を超えてまで、しかも、一銘柄のワラント債に絞って購入することを高倉が熱心に勧誘したのは、勧誘方法として許される範囲を逸脱した行為であり、高倉の本件ワラント債購入の勧誘は違法であり、不法行為を構成する。

3  被告は、原告の右主張に対して、次のとおり反論する。

(1) 一般に、ワラント債のリスク説明義務と曖昧に広く指摘されるものは、すべてが不法行為責任の前提となる注意義務ではない。

証券投資は儲かるものであると同時に、損失を被るものでもある。投資家の才と運によって左右され、客観情勢の変化にも左右されることが避けられない。証券投資家は証券取引のリスクを甘受して証券投資に取り組むのであり、そのような投資家自身に課せられる注意義務に相応して、証券会社の営業担当者の注意義務の程度は、質的にも、量的にも、軽減されて然るべきである。ワラント債のリスクの説明義務の内容・程度についても、あくまで、それがなければ原告に不測の損害を発生させる(因果関係のある)ものでなければならない。すなわち、その説明がなければ、取引通念上、投資家に損害を生じさせることが当然であるという内容及び程度に限られるべきである。

また、証券取引の経験を有している投資家に対する説明義務は、その知識経験を有しない投資家に対する説明義務に比べて、内容・程度とも、格段に軽減されるべきである。その知識経験の程度によっては、説明義務が免除ないし極めて軽減されることすらありうる。

一方、当然のことながら、証券会社にも正当な勧誘行為は許される。原告がワラント債取引において損失を被ったとしても、基本的には、証券投資に伴うリスクに過ぎず、あくまで自己責任であることを見誤ってはならない。

(2) 本件においては、原告は十分な証券取引の知識と経験を有するものである。

すなわち、原告の被告との取引を見ても、数百万円の買付け、売却が繰り返されており、個人投資家としては、多額かつ頻繁な取引である。しかも、原告自身供述するように、被告よりも他社(センチュリー証券)との取引のほうが多い。また、被告との取引開始前にも、株取引、信用取引を多数回行っており、信用取引で莫大な損失も経験している。したがって、原告はベテラン投資家の域にある者であり、このような者に対する証券会社の営業担当者のリスクの説明義務は極めて軽減されるべきである。

ワラント債取引に関しても、原告は、本件取引の他に、その前後長期間にわたり、かつ、頻繁に行っている。しかも、本件ワラント債買付け前の各ワラント債取引では、いずれも利益を上げているのである。原告の本件請求は、利益を上げた取引を除外して損失を生じた取引のみを問題とする、まことに不可思議な、かつ、原告に都合のよい請求である。さらに、原告は、本件取引後も、自らの自発的な意思で日新製鋼ドル建ワラント債三〇単位を買い付けているが、被告の不法行為によって損害を被った筈の原告としては、真に理解に苦しむ行動である。原告の本件請求は、利益を上げた取引を棚上げにして、損失の発生した本件取引のみについて不法行為云々と言い掛かりをつけているものにすぎない。

(3) 一方、被告会社の営業担当者である高倉は、原告に対し、ワラント債取引のリスクについて、その価格がゼロになりうることも含めて、説明義務を尽くしている。

すなわち、高倉は、本件取引に先立つ平成五年五月二四日、原告がロームドル建ワラント債一〇単位の買付けの際、ワラント債のリスクを、その価格がゼロになりうることも含めて、十分説明しており、原告もこれを十分認識していたものである。高倉は本件取引前に原告に対し、「外貨建ワラント取引のしくみ」と題する説明書を送付しているが、原告はやむなくその事実を認めながらも、受領した時期は不明であり、内容も難解で理解できなかった旨供述している。しかし、その送付が本件取引前であったことは明白であり、その内容もワラント債のリスクについて、その価格がゼロになりうることも含めて、平易かつ十分に説明したものである。証券知識が豊富な原告が読んで理解できない筈がない。加えて、高倉は来店した原告に対し、図表まで書いてワラント債の説明をしており、原告はワラント債取引のリスクも十分に理解していた。

(4) 原告が本件取引後に、説明がなかった云々と苦情を述べてきたのは、平成三年三月に高倉が被告会社千葉支店に転勤になった後、相当期間経過してからである。しかも、原告の要望たるや、高倉に対し、嘘をついて欲しいとか、絵画のリース客を紹介して欲しい等といった非常識なものに終始している。このような本件取引以降の原告の対応を見ても、原告の本件請求が不自然であり、不当であることが明らかである。

二争点

本件取引によって原告に生じた損害が、被告会社の営業担当者である高倉の違法な勧誘に基づくものか、あるいは、投資家としての原告の自己責任に帰せられるべきものか。

第三争点に対する判断

一〈書証番号略〉並びに原告及び訴え取下前被告高倉の各本人尋問の結果によれば、原告が前記第二の一の2(1)ないし(4)において主張する各事実を認めることができる。

高倉は、同人に対する訴え取下前の本人尋問において、ワラント債の価格がゼロになってしまうリスクがあることを説明したかのような供述をしている。しかし、その供述自体あいまいであり(同人の本人尋問調書三丁裏)、その供述全体の流れからみれば、同人はワラント価格について、被告会社発行の説明書(〈書証番号略〉)の一〇ページのような図を書いて原告に説明したものであり、その図を見れば、株価が権利行使価格以下となったまま権利行使期限を迎えると、ワラント価格はゼロになることが理屈の上で分かるというにすぎないものと認められる(同調書一九丁裏)。

実際問題としても、高倉は、当時、「とにかく株式市場が佳境なとき」であり、「株価が一方的に上がっていく相場だった」ということもあって(同調書六丁裏)、ワラント債は株を大幅に上回る儲けを生むものであるという認識しかなく、特に鉄鋼株については、どのメーカーの株も日々大幅に上がっていくという強い認識を持っていたことから(同調書二四丁裏)、原告に対し、ワラント債の価格がゼロになる可能性があることを警告しなければならない必要性を感じていなかったのであり、そのような強い認識が、「わいはワラントの申し子や」という自信にあふれた発言(同調書四丁表、一五丁裏)につながったものと考えられる。高倉がワラント債のリスクについて、その価格がゼロになりうることも含めて、十分に説明したとする被告の主張は採用できない。

なお、〈書証番号略〉並びに高倉及び原告の供述によれば、高倉は本件取引前に、被告会社作成のワラント債取引に関するパンフレットを原告に送付しており、右パンフレットには、ワラント債がハイリスク、ハイリターンの商品であることのほか、株価が権利行使価格を下回ったまま権利行使期限を迎えると、ワラント債の価格はゼロになる旨の記述があることが認められるが、高倉の認識及び説明が右認定のとおりである以上、このパンフレットの記載のみから、原告がワラント債の特質を承知していたものと認めることはできない。

二そこで、右一認定の事実をもって、高倉の原告に対する本件ワラント債の購入の勧誘が違法といえるかどうかについて考えるに、右事実によれば、原告は当初、被告会社において、数百万円前後の取引を行ってきたが、高倉は本件取引の約一週間前に、横浜冷凍株について被告会社が特別の立場にあるとして、原告が被告会社に委託して購入した現有株式のほとんどを売却してでもこれを購入するよう勧め、購入価格一〇五七万三〇九一円で購入させたこと、その後、高倉は、本件取引当日に右横浜冷凍株を全部売却するよう勧め、その了解を得るや、今度は、ワラント債につき必ずしも正確な知識を持ち合わせている状況になかった原告に対し(当時は被告会社の営業担当者ですらワラント債を皆が理解している状況になかったことは、後記のとおりである。)、右横浜冷凍株全部を売却した結果残る口座残高を超えてまで、しかも、本件ワラント債一銘柄に絞って熱心に購入を勧めたこと、その際、高倉は鉄鋼株が値上がりするという強い認識を持っていたことから、ワラント債は株よりも儲けが大きいことを強調して購入を強く勧めたことが認められる。

これらの事実によれば、高倉の本件ワラント債購入の勧誘行為は、証券会社の営業担当者の勧誘行為として許される限度を超えた違法なものであるといわざるをえない。証券会社は、単に証券取引の営業により利益を追及するのみではなく、公正な証券取引の担い手として、株式その他の有価証券の流通が適正かつ円滑に行われるよう努める公的義務を負っているものであり(証券取引法の諸規定参照)、証券会社の営業担当者は、証券会社のこの公的立場をいささかも損なうことのないよう努める義務を負っている。したがって、間違いなく有価証券の価格が騰貴するかのような見方を示して有価証券の売買等の勧誘をすること(高倉自身の認識のほか、原告の被告会社における株式及びワラント債の取引の数量からも、この事実が推認される。)は、違法であり、高倉の原告に対する本件ワラント債購入の勧誘行為は、この観点からみて違法であるといわなければならない。

三高倉は、常に顧客が儲けてもらおうというつもりで証券の購入を勧めているというのであり(同調書一七丁表)、それはサービス業に従事する者としては、ほめられるべき心掛けである。そのために日々株式の勉強をし、ワラント債については、当時、被告会社の営業担当者にすら理解が十分でない者がいたにもかかわらず、他の営業担当者に先駆けて理解をしたというのであり(同調書四丁表)、その姿勢も、営業担当者の心掛けとしてはほめられるべきものである。しかし、そのことと、そのような姿勢及び知識を顧客に誇示し、自らのことを「ワラントの申し子」などと標榜して、自己の適切と考える銘柄の商品の購入を強く勧めることとは別問題であり、前者がほめられるべきことであるからといって、後者の行為が違法の評価を免れるわけではない。

特に、株式の取引においては、予想もしない価格の下落がありうることは、証券会社の営業担当者としては十二分に認識しておくべきことであり(現に本件取引の約二年前である昭和六二年一〇月にいわゆるブラックマンデーといわれる予期しえない株価下落の時期があったことは公知の事実である。)、いかに自己の勉強の結果、ある銘柄が値上がりするという確信を持ったとしても、証券会社の営業担当者は顧客から有価証券取引の専門家と見られているがゆえに、一般の顧客に対し、その銘柄を買えば儲かることを標榜して購入を強く勧誘することは、顧客に誤った選択をさせるおそれがあり、厳に慎まなければならないのである(原告は株式の取引については相当程度の経験のあるものであるが、ワラント債に関しては、一般の顧客といって差し支えない者である)。証券会社の営業担当者は、証券会社が前記のとおり公的立場にあり、また、一般人が知りえない企業内情報にも接する機会が少なくないため、顧客に対し、自己が予想する以上に多大な影響力を与える立場にあることを常に自戒すべきである。

被告が主張するとおり、証券会社にも正当な勧誘行為は許されるが、一般の顧客に誤った認識を持たせて株式投資に走らせることまで正当な勧誘行為ということができないことはいうまでもない。証券会社は、営業者であると同時に、株式取引の秩序の担い手という、いわば公的立場にあることを、この際、改めて認識すべきである。

四なお、被告は、本件取引後の原告の不服申立ての姿勢も問題にしているので、この点について一言するに、〈書証番号略〉及び高倉の供述によれば、原告が本件取引後、本訴請求までの間に、前記第二の一の3の(4)記載のような行動をとったということであるが、仮にそれが事実であったとしても、それは原告が本件取引によって被った損害が高倉の言を信頼したことによる不当なものであるとの認識の裏返しといえなくもないものである。当裁判所は、本件について、証拠調べ後に和解の勧告をしたが、その場での被告の主張は、自己の営業担当者である高倉の言い分のみに固執し、原告の言い分にはまったく耳を貸さないものであった。原告がその本人尋問において、自己に不利益と思われる事実についても率直に供述し、和解の場でも同様の姿勢であったのと対照的である。このようないきさつから見て、本件ワラント債取引後、本訴提起までの間の原告の言動がどうであったかは、問題にするに足りないものと考える。

五右一ないし四に認定判断したとおり、高倉の原告に対する本件ワラント債購入の勧誘行為は違法であるから、高倉の使用者である被告は原告に対し、高倉の右不法行為によって原告に生じた損害を賠償すべき義務がある。

六被告は、本件取引により原告に生じた損害は原告の自己責任に基づくものであると主張しており、右主張は、前記一認定の事実関係を考慮すれば、過失相殺類似の法理により、原告に生じた損害のうち、原告が自己の責任において負担すべき部分を控除して被告の損害賠償額を認定すべきであるとの主張と解するのが相当である。そこで、本件取引により原告に生じた損害のうち、原告が自己の責任において負担すべき部分があるかどうかについて検討する。

前記一認定の事実及び原告本人尋問の結果によれば、原告は昭和五九年ころから株式投資を始めたものであること、原告と被告との取引は平成元年四月下旬に始まり、本件ワラント債取引までの間、当初は一銘柄当たり一〇〇万円台から五〇〇万円台までの取引であったが、同年八月二五日には、高倉の強い勧めもあって一〇五七万余円で横浜冷凍株を購入したこと、原告と被告間の本件取引以前の取引の中には、株式の売買のほか、ドル建ワラント債の購入及び売却が各三回あり、その取引額は一回につき一〇〇万円台から三〇〇万円台であったこと、原告が最初に右ドル建ワラント債を購入した際、高倉から、ワラント債について「ギアリング効果」との用語を用いて、ハイリスク、ハイリターンの商品であり、株よりも儲けが大きいが、損も大きくなる可能性があるとの説明を受けていたこと(ただし、高倉が満を持して儲かる商品として本件ワラント債を推奨したことから、原告には、本件ワラント債について損が生ずるという認識は希薄であった。)、その数日後に、原告は高倉から、被告会社が作成したワラント債取引に関するパンフレットの送付を受けたが、右パンフレットには、ワラント債がハイリスク、ハイリターンの商品であり、株価が権利行使価格を下回ったまま権利行使期限を過ぎるとワラント債の価格はゼロになる旨記載されていたこと、原告は本件取引までの間に、被告会社以外とも株取引をしており、被告会社より取引額の多い証券会社も一社あったこと、その取引の中には、株の現物取引のほか、信用取引もあったことが認められる。

右認定事実によれば、原告が本件ワラント債を購入するについて、高倉に前記一のような違法な勧誘があったとはいえ、原告は株取引のリスクについては熟知しており、ワラント債取引についても、少なくとも、株取引よりはリスクも大きいことを理解していたものと考えられる。原告にそこまでの理解があった以上、本件取引によって原告に生じた損害のうち、ワラント債の価格が大きく下落したといえる限度の損害部分については、原告の自己責任に帰するべき損害であると認めるのが相当である。これを数額により評価すると、被告が原告に対して賠償すべき額は、一九〇万円(総損害額の約一五パーセント)と認めるのが相当であり、これを超える損害(総損害額の約八五パーセント)は、原告が自己責任において負担すべきものである。

七以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、被告に対し、一九〇万円及び不法行為後である平成元年九月七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとする。

(裁判官園尾隆司)

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